「うちの子、シニアになったのになんだか食欲旺盛で元気なのよね」 「若い頃より活発になったみたい!」
愛猫が年をとっても元気にご飯を食べてくれるのは、飼い主としてとても嬉しいことですよね。 でも、その元気、もしかしたらただの「老化」ではないかもしれません。
「たくさん食べているのに、なぜか痩せていく」 「夜中に大きな声で鳴くようになった」 「妙にハイテンションで落ち着きがない」
実はこれらは、高齢猫に多い「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」という病気のサインかもしれないのです。

こんにちは、にゃんトピのパパちゃんです。 わが家の次男坊「ゆうま」は、おっとりした性格のエキゾチックショートヘアですが、実はこの猫種、ペルシャの血を引いており、甲状腺の病気になりやすい傾向があるそうで…。 「いつかゆうまが急変したらどうしよう」と、今から戦々恐々としています。
今回は、一見元気に見えてしまうため発見が遅れがちなサイレントキラー、「甲状腺機能亢進症」について、にゃんトピの頼れるアドバイザー・猫実先生に詳しく教えてもらいます。
「元気だから大丈夫」という思い込みを捨て、正しい知識で愛猫のSOSをキャッチできるようになりましょう!

病気にかかったら元気がなくなるのが普通だと思うんですが、逆に元気になるってどういうことですか?

不思議ですよね。でもこれがこの病気の最大の特徴なんです。 まずは、体の中で何が起きているのか、その仕組みから解説しましょう。

甲状腺は、喉のあたりにある小さな臓器で、『甲状腺ホルモン』を分泌しています。このホルモンは、体の代謝を活発にする、いわば『やる気スイッチ(アクセル)』のような役割を持っています。

甲状腺機能亢進症とは、このホルモンが過剰に出すぎてしまう病気です。 常にアクセルを全開に踏み込んでいる状態になるため、基礎代謝が異常に上がり、体は24時間フルマラソンをしているような状態になってしまいます。 だから一見、活発で元気に見えてしまうのです。


主な原因は、甲状腺にできた良性の腫瘍(甲状腺腫)であることが多いです。 なぜ腫瘍ができるのかは完全には解明されていませんが、いくつかの要因が考えられています。
- 遺伝的傾向: シャムやヒマラヤン、ペルシャ系などで発症リスクが高いという報告があります。
- 環境要因: キャットフードの缶詰の内側のコーティング剤や、特定の化学物質の影響なども研究されていますが、まだ断定はできません。
基本的には『高齢猫(10歳以上)』に非常に多い病気だと覚えておいてください。

年をとって頑固になったとか、ボケちゃったのかな?で片付けちゃいそう…。 具体的にどんなサインに気をつければいいんですか?

一番分かりやすいのは『食欲』です。 代謝が上がりすぎてエネルギーを消費してしまうため、食べても食べてもお腹が空く『食欲魔神』状態になります。 それなのに、体はどんどん痩せていく…。これは非常に危険なサインです。 また、喉も乾くので、水を飲む量やおしっこの量が極端に増えることもあります。


ホルモンの影響で神経が高ぶり、性格が豹変することもあります。
- 今まで穏やかだった子が、急に怒りっぽくなる
- 夜中にウロウロ歩き回って、大きな声で鳴く(夜鳴き)
- 落ち着きがなく、目がランランとしている

これらを『認知症かな?』と勘違いされるケースも多いですが、実は甲状腺が原因だったということもよくあります。

胃腸の働きも活発になりすぎるため、食べたものがうまく消化できず、頻繁に吐いたり、軟便・下痢になったりすることもあります。


先生、一番怖いことを聞きます。この病気を放置すると、やっぱり死んでしまうんでしょうか…?

放置すれば、残念ながら命に関わります。 ただ、甲状腺の病気そのもので亡くなるというよりは、全身の臓器に負担がかかりすぎて限界を迎えてしまう(合併症)ケースがほとんどです。

常に全力疾走している状態なので、一番負担がかかるのは『心臓』です。 心臓がバクバクと働き続けることで筋肉が分厚くなる『肥大型心筋症』や、高血圧を引き起こし、最終的に心不全や血栓症などで命を落とすリスクが高まります。


そして、治療の際にもっとも厄介なのが『隠れ腎臓病』です。 実は、甲状腺ホルモンが多い状態だと血流が良くなるため、本来は弱っているはずの腎臓の数値が、見かけ上良く見えてしまう(マスクされる)ことがあるんです。

治療をしてホルモン値を正常に戻すと、血流も元に戻るため、隠れていた腎不全の症状が一気に表面化することがあります。 あちらを立てればこちらが立たず…獣医師にとっても非常にコントロールが難しいポイントですね。」

首を触れば分かるって聞いたことあるけど、私たちが触っても分かりますか?

獣医師が触診すれば、喉のあたりに『しこり(腫れた甲状腺)』を確認できることが多いですが、ご家庭では難しいかもしれません。 確定診断には、動物病院での血液検査(T4というホルモン値の測定)が必須です。

治療法はいくつかありますが、日本での主流は以下の2つです。
- 投薬(抗甲状腺薬): ホルモンの合成を抑える薬を毎日飲みます。最も一般的で調整しやすいですが、一生飲み続ける必要があります。
- 療法食(ヨウ素制限): ホルモンの材料となる『ヨウ素』を極限まで減らした専用フードを食べます。ただし、他のおやつや食事は一切NGになるため、多頭飼いの場合は管理が難しいこともあります。
外科手術で甲状腺を取る方法もありますが、高齢猫への麻酔リスクや、副甲状腺まで取ってしまうリスクがあるため慎重な判断が必要です。 また、海外では一般的な放射性ヨウ素治療は、日本では実施できる施設が大学病院などごく一部に限られているのが現状です。」

改めてわが家のエキゾチックショートヘア「ゆうま」のことを考えました。 「ペルシャ系はなりやすい」という話は、正直なんとなく知っていた程度でしたが、具体的にどう気をつければいいのかまでは考えていませんでした。
素人が首を触ってもしこりは分からないし、下手に触って嫌われたくない(笑)。 なので、わが家では無理に触診はせず、「行動」と「体重」の変化を逃さないことをルールにしました。
- 抱っこついでに体重測定
わが家では、スキンシップのついでに、なんとなく体重計に乗って測るようにしています。 「最近よく食べるのに、抱っこしたらなんか軽い?」 この違和感こそが、最大の発見ポイントだと思っています。 - 「おっとり」が崩れたら要注意
ゆうまは基本、超おっとり屋で、一日中クッションと同化しているような子です。 そんな彼が、もし急に部屋をウロウロしだしたり、攻撃的になったりしたら…。 「元気になった」ではなく「何かがおかしい」と疑うべきだと、今回の先生の話で肝に銘じました。 - シニア期の検診には「T4」を追加
そして決めたことが一つ。 ゆうまがシニア期(7歳〜)に入ったら、毎年の健康診断の血液検査に、オプションで「T4(甲状腺ホルモン)」の項目を追加しようと思います(ママちゃんとも相談済み)。 腎臓の数値と一緒に見てもらうことで、隠れたリスクにも早く気づけるはずですからね。

ぼくは元気が一番だけど、元気すぎるのもダメなの? 猫の世界もいろいろむずかしいな〜。

ぼくはのんびり屋だから、急に走り回ったりしないもん…。 もしそんなことしてたら、パパちゃん止めてね…。

『年をとって元気になった』なんて、ぬか喜びかもしれないってことね。 これからはハイテンションな時こそ、冷静に観察しなきゃ。肝に銘じるわ。

そうだね。毎日一緒にいる僕たちだけが気づける変化があるはず。 定期検診の項目も見直して、シニア期への備えを万全にしよう!

その意気です。 甲状腺機能亢進症は、早期に発見してコントロールできれば、決して怖い病気ではありません。 愛猫の『いつもと違う』を大切に、これからも穏やかな毎日を守ってあげてくださいね。

